子宮内膜症
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どんな病気なの?

子宮内膜は、本来、子宮の内側をおおっている粘膜で、女性ホルモン(エストロゲンとプロゲステロン)に反応して増殖、成熟し、ホルモンが低下すると剥離し出血を起こし、血液といっしょに膣から体外に排出されます。これが月経です。

この子宮内膜が、なぜか子宮の内側以外の場所(@子宮外壁、A子宮筋層内、B腹膜、卵巣、稀には肺や外陰部など)に存在し、そこでもホルモンに反応して月経のたびに増殖や出血を繰り返してしまいます。ところが、そこには膣のような出口がありませんから、血液がその場にたまって病巣をつくり、炎症を起こしてしまうのです。それが子宮内膜症です。

子宮内膜症でやっかいなのは癒着が起こりやすいことです。そもそも癒着というのは、傷口を治そうとして組織どうしがくっつくことですが、子宮内膜症では、子宮内膜がはがれて傷ができるために、体がその傷を修復しようとして、まわりの臓器や膜にくっつくのです。また何度もはがれては出血という状態を繰り返していると、その部分に硬いしこりができ、刺激を受けると痛むようになります。

病巣の初期はごく小さいために見つけにくく、出血を繰り返して少しずつ大きくなります。病巣は小さなものが点在している場合が多く、手術で完全に取り去ることは難しいといえます。また薬で病巣を小さくできても、治療が終ればまた元に戻ってしまい、再発することもよくあります。そのため一度なったら完治するのが難しい病気です。ただ、ガンなどと違って良性の病気で、命にかかわることはありませんので、症状を軽減しながら上手につきあっていくこともできる病気です。


なぜできるの?

なぜ、子宮内膜がそんなさまざまな場所にできてしまうのかについては、まだよく判ってはいませんが、「月経血が卵管を逆流して腹腔内に侵入し、内膜細胞がそこで定着し増えるのではないか」とか「女性の腹膜には、もともと子宮内膜予備状態があり、生体調節システム(免疫、ホルモン、神経など)により、それ以上進まないように守られているが、それがうまく働かない人が内膜症を発症する」などの説があります。

近年、わが国では子宮内膜症は増えており、月経のある女性の10人に1人がかかっていると言われています。最近の女性は初経年齢が低くなっているのに対し、結婚・妊娠は高年齢化しているので、初経から妊娠するまでの期間が長く、腹腔内が月経血にさらされる回数の増加が関係しているのではないかと考えられています。


症状は?

(1)痛み
9割以上の人が訴える代表的な、またいちばんつらい症状が、強い月経痛です。ここ数年月経痛が激しくなり、月を追うごとにひどくなって、薬をのんでも治まらず寝込むほど・・・というのが典型的な現れ方です。このつらい痛みの原因は、おもにプロスタグランディンという物質です。プロスタグランディンは陣痛を促がす物質ですが、通常の月経の時にも分泌され、子宮を収縮させる作用があります。この収縮によって経血が外に出されるのですが、子宮内膜症の人の場合、内膜症病巣からも分泌されるためかプロスタグランディンの量が多く、余計に収縮して痛みがひどくなるようです。

また7割以上の人が月経時以外にも下腹部痛を感じています。子宮内膜症があると、骨盤内の臓器に癒着が発生しやすくなります。そうするとあちこちにひきつれが起こって、下腹部に痛みを感じるのです。

ただ、こうした痛みは子宮内膜症以外でも起こるのに対し、性交痛と排便痛は、子宮内膜症にかなり特徴的な痛みです。



(2)不妊状態
子宮内膜症なら必ず不妊だというわけではありませんが、不妊の女性に子宮内膜症が多くみられるのは事実です。原因としては、「癒着による卵管の閉塞や運動障害」「子宮内膜症患者では腹水が増加しており、その中に含まれるサイトカインという物質による精子の機能低下」「プロスタグランディンによる卵管異常収縮が、卵の輸送や受精をじゃましたり、受精卵の発育を障害するから」などが考えられています。


診断するには

症状
月経痛、性交痛、排便痛、不妊


内診所見
子宮可動性低下、圧痛


超音波断層、MRI、CTなどの検査
(特に子宮壁に病変のある子宮腺筋症、卵巣内に病変があり、血が溜まってできるチョコレート嚢腫の場合)

腫瘍マーカー、特にCA125

腹腔鏡
直接腹腔内をみることで最も正確に診断できるし、場合によってはそのまま手術も可能


治療は?

(1)エストロゲンを低下させる薬をつかい、閉経状態を作ります。
Gn-RHa療法
Gn-RHaは人工的に合成されたホルモン薬(点鼻タイプ゚のスプレキュア、ナサニール、注射タイプのリュープリン)。副作用として、身体が閉経と同じ状態になるため、更年期障害のような症状が現れます。

ダナゾール療法
男性ホルモン系のステロイドホルモン剤。副作用として、体重増加や皮脂分泌の増加などのほか、声が太く低くなったり、毛が濃くなるなどの男性化現象が見られます。



(2)低容量ピル内服(偽妊娠療法)
妊娠と同じ状態を作り子宮内膜の増殖をおさえます。効果はやや劣りますが、Gn-RHaなどに比べ副作用が少ないため、新たな治療薬として注目されています。



(3)鎮痛剤など症状を軽くする薬



(4)手術
最近は、腹腔鏡手術が多くなりつつあります。特に不妊状態の改善には、先ほど述べたホルモン治療は排卵しない状態をつくるものなので、治療中は不妊の治療とは相反する面があり、治療後の成績を比べると薬物療法より腹腔鏡手術のほうが優れています。また、チョコレート嚢腫に対しても、癌化することがあるので、手術が最適と考えられます。

保存手術
未婚の人や、妊娠を望む人には、極力子宮や卵巣を残し、病巣だけを処置する保存手術が行なわれます。

準根治手術
子宮腺筋症のように保存手術がむずかしく、薬物療法でもまったく症状が改善しない場合で子どもを望まない人に行なわれます。少なくとも片方の卵巣を残し、子宮を摘出する手術です。この手術でつらい症状から解放され、そのうえ片方の卵巣を残すことにより更年期障害の症状などの副作用に悩まされないで過ごせます。しかし、再発の危険性も残ります。


根治手術
症状が非常に重症で、閉経も近い場合、子宮と左右の卵巣、卵管などの付属物もすべて摘出する手術です。エストロゲンの分泌もがなくなり、月経もなくなるので、つらい症状から解放され、再発の心配もありません。しかし、エストロゲンの分泌がまったくなくなるので、更年期障害の症状が現れ、骨粗鬆症や高脂血症のリスクが高くなります。





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